たらたら神秘主義

本と映画と音楽と日常、できれば神秘

カミガミの来訪

ユダヤ教の安息日のことをよくは知らないのだが、それに倣うつもりで、毎月どこかの休日を「ぐうたらの日」とし、本もテレビも新聞も、インターネットはもちろん、どんな電子機器にも触れてはならず、車はもちろん、いかなる交通機関も利用してはならず、な…

トモダチの輪

ミユがいじめられているのを うちらはざまみろと見ていた。 最近のミユはちょうし乗ってた。 うちらが席をとってお昼を食べずに待っていたのに ヒロたちと売店に行っていつまでも帰ってこなくて、 あげくにヒロたちと一緒に食べるって。 学校から帰る途中で…

「きろえちゃんへ」

きろえちゃんへ きろえちゃん ってへんな名前だね。 ぼくがつけた。 ほんとうの名前なんて、 すてちゃいなよ。 それでぼくとともに きろえちゃんとして生きるのさ。 あるいは。 だれか であることなんてやめて なんだかわからないこの世に目覚めた一部として…

詩伝書 ひとりの少年が盗みをはたらき おなじ少年が詩を書いた 少年は おとなになって 詩の書き方をひとに教えはしなかったが 盗みのしかたは 年下の少年に伝授した 電車の吊革につかまりながら 師匠である青年は ときどき遠くをみて ぶつぶつと 口のなかで…

おととい失われた幾千の母に 自転車にのって どこへ行こう 夕暮れにはまだ 間があって 母もまだ 生きている 夕餉がぼくを待ってくれる この山の辺で きょう 職場へ向かう車のなか そんな だれかの故郷を思った 想像のなかで 母だけが ぼくの母であった きの…

蝶を夢む 森のひらけた その場所にだけ 陽がさして ただよふ水 浮かぶ死体 ゆつくりと回転し しろい肌を ひかり 斑らにうつろふ。 あれは わたし それを どこからか見てゐる 幾億の 虫たち 鳥たち けものたちそして 木々の葉 それも わたし 一匹の蝶がまひお…

じぶん ぼくのクローンは二体。 本体と合わせて合計三体の「じぶん」を同時にコントロールしながら生きるのは、君たちからすると不思議なのだろうけど、慣れれば混乱することはないよ。物心がついたころには、すでにこうだから。 むしろ「じぶん」が一人だと…

小山靖代 仮のやどだと思って はいりこんだその女の部屋に もう半年も居ついてしまい 俺がいてもかまわず他の男に電話をかけて 甘えた声を出しているのを見て それでもなにも思わない俺はすでに終ってるなと 確信しながらしかし手元のニンテンドーDSに夢中…

世界とたたかうぼくの物語 堤くんが死んだ。 正月に帰省したぼくに母が伝えた。 これはあくまで 世界とたたかうぼくの物語である。 こっけいに しかし真摯にたたかう ぼくについての。 堤くんはいつもひとりだった。 小学生のぼくたちは 堤くんちの屋根のう…

祈り冗談みたいなふりして部屋につれこもうとしたらわたしはこんなに軽い女ではないと明言するからおれもこんなに軽い男ではないと急にまじめになって明言する死の儀式だとバタイユという男が言ったんだよおれと死のうよしぬしぬしぬとおればかり大騒ぎして…

裏切りの記憶 いつだか見知らぬ一人の男に話しかけられたことがあった。 ミズホは元気かとこれも 知らない女のことを訊かれて 俺はうすら笑いを浮かべながら もしかして俺には瑞穂という女がいて 今この広場で待ち合わせていたとしても 少しも変ではなくて、…

森に棲む魚 人生の終わりに老人 すなわち私は 木々に囲まれた夕暮れの庭の 池のほとりにしゃがみこんでいる 鬱蒼と生い茂る木々に覆われた 緑色の濁った池 その水面を見つめるとき 鬱蒼とした木々が風にさわぎ 始まりも終わりもない時間が たゆたっている そ…

ラブラブラブ ある日恋人と電話で話していると 頭の中から 何かがでてきた 耳くそかと思ったけどその瞬間 恋人のことが何で好きなのか 分からなくなっていた 床に落ちた直径5ミリほどの灰褐色の玉を 猫が食べてしまった その週末に恋人と待ち合わせて 電車…

輪廻 ねえ、すてきだったねえ。あのパーティー。おぞましいものたちがたくさんいた。ピエロが話しかけてきたよね。声なくてパクパクと大きな赤い口だけが印象的だった。私をあなただと勘違いしてるからおかしくて、「ユウジはここにはいないよ」と言ったよね…

森のプール 〔泳ぐ子と静かな親の森のプール〕 森には森のプールがある 空には空のプールがあって 夜には夜のプールがある 森のプールを囲んで たたずむ親たち 泳ぐ 子どもたち ららり らら 歌声が 森に響く あえぎ、おぼれ、沈む 子どもたち じっと見つめる…

黒い川の流れのなかで ある夜のこと ぼくは車を運転して 北利根川にかかる 橋を渡った 黒く巨大な水のかたまりが ゆっくりと移動していた 想像はそのまま現実である ぼくは 黒く大きなうごめく水に 飲み込まれた 車も靴も仕事も家庭も みんな黒い水の中 たく…

永遠の娘 あたしの彼は お腹に石ころをつめこんで 川底にただよっている なんにんもなんにんも あなたもきっと そうなるよ それでもあたしを 好きなの? だったら 殺してよ 逃げられるはずが ないじゃない この世はすべて パパのもの 知らないの? あたしの…

アメ玉 緑色の列車に乗り込んだぞろぞろの人々。 国籍不明性別不明 ポケットの中にアメ玉ひとつ。 その中に ぷっくりと右頬をふくらましているひとり。 それが僕だ。 ここに来る前の、記憶。 唇を合わせて左手を首にまわして 鏡に映る自分自身と目を合わせる…

故郷 故郷の村は 掘割のような水路に囲まれた 一区画である。 周囲を一回りするのに 二十分もかからない小さな土地に 多くの家々が密集し あいだを細く入り組んだ路地が 縫っていた。 *村に出入りするための 唯一の通路 北側の小さな橋を渡るとすぐに ひし…

夢の女 1その人とともに、夜の河のほとりに住んでいたことがある。その頃、私と彼女は、ひとつだった。体をかさね、目を瞑りながら、ただ水の音を聞いていた。それは、別の世界での出来事。会ったことのない女の記憶。 2ある日彼女は、黒い河に流されてい…

雨ふる鉄塔、森の中 幼い私が 雨のなかで 鉄塔の 赤い光を見つめてる 見渡すかぎり誰もいない 畑の中を しとどに濡れて 歩き出す 世界が何かも 分からないままに 鉄塔は 森の中に立っている 大きな蛇や 素性の知れない ぼろをきた男や 突然現れる 小さな電車…

ある芸術家の肖像 若い恋人が、言うのである。 「私と結婚したいって言ってくれてる人、 いるんだ」 問題は、その彼を 好きかどうかではないのか。 「すごく好きなわけじゃないよ。 でも、私のこと大事にしてくれそうだし ……それでもいいのかなって。 お金持…

風に吹かれる雨の記憶 教壇に立って試験監督をしていると、 午前中は晴れていた外の景色がいつのまにか黒ずんでいて、 よく見ると雨が降っていた。 二階の窓から見える外の樹々が 風に吹かれて大きく揺れ、 そこにもったいないくらいの勢いで 雨が降り注いで…

よるのくに 仕事から帰って ひとりでずっとテレビをみてると すべてが少しだけ遠ざかって 私だけこの世界から五〇センチ後ろに ずれてしまっているような 気持ちになる ベッドに横になり いつものように 右側の壁を見つめながら その世界に入っていく そこは…

「水の娘」

水の娘 これはある異国の町を訪れたときに日本語のうまい絨毯売りが教えてくれた話なのだが、それが事実なのかあるいは彼の作り話なのか確かめることもしないまま、ぼくの頭に住みついて、夢うつつにふとなまなましくよみがえってくることがある。 町の西側…

池 陰鬱な空を背景にして建つその家にはひとつの小さな池が存在する。鬱蒼と覆い被さる庭木によって陽の当たらないその池の中にいったい何が棲むのか緑色の水面からは窺い知れない。恐らく地上に棲むものには想像もできない異形の魚が手に負えないほどの大き…

夕暮れに目覚めて、 夕暮れに 目覚めて、 ぼくはひとり 途方に暮れる。 窓の外には 見知らぬ景色が 広がって ぼくはひとり うす暗い この見知らぬ部屋に うずくまる。 空の青さと 西日の当たる 小高い丘と 風に揺れる カーテンを 理由もわからず ながめてる…

深い森の秘密※ 日々渡っていかねばならないこの世間というやつは、うかつ者のぼくに対して 時にとんでもなく非情な態度をとったりする。だからそんな日は家に帰ると歯を 磨いてさっさと寝てしまうことにしている。 あなたの疲れを癒すのは 深い森 緑色に息づ…

深い森の秘密(pure version) あなたの疲れを癒すのは 深い森 緑色に息づく木々の葉が 夜じゅう雫を滴らせる 森では遠くどこからか 迷い込んだあなたを呼ぶ あなたの本当の名前で呼ぶ だからあなたは知ることになる ずっとまえからあなたを待つ ひとりのひ…

自転車旅行主義 出発地は 幼い頃のぼくの家 父はまだ生きている ぐいとペダルをこぎ出すと なぜかゆがんだ青い空 あの道を右に曲がって 見慣れない路地を縫っていく 店先に座るおばさんの 人生だとか 食器の触れ合う 音だとか ここがここであることの 必然性…