たらたら神秘主義

本と映画と音楽と日常、できれば神秘

「きろえちゃんへ」

 きろえちゃんへ


きろえちゃん
ってへんな名前だね。
ぼくがつけた。
ほんとうの名前なんて、
すてちゃいなよ。
それでぼくとともに
きろえちゃんとして生きるのさ。


あるいは。
だれか
であることなんてやめて
なんだかわからないこの世に目覚めた一部として
知覚しあおうぜちくびちちくりあおうぜ。


ぼくはきろえちゃんのとなりのクラスの者ですはじめまして。
だけど
きろえちゃんデータは日々膨張し
きみのたいていのことは知っているのだ。
たとえばトイレには必ずひとりで行くこと。
それも必ず2時間目のあとと5時間目のあとで。
必ず、か・な・ら・ず・ですよ!


きろえちゃんの法則
ふたつめは、
黄色いものをかならず身につけていること。みっつめは、
けっしてぼくを見ないこと。
はずかしがりや!
ぼくのきろえちゃん。


きみの見るもの、聞くもの、それらをすべて
知りたいんだ。だから
現在ぼくのハイテク技術総動員中。
もうすぐぼくときみの知覚はシンクロして
ぼくはきろえちゃんになるから、
すなわちきろえちゃんはぼくになるんだよ。


このまえの日曜も
きみの家に行ったよ。
夕焼けで内臓色に染まったきみの住む町をあるきながら
ここはすでに きみの中なのでは?
という気がして
メロンパン屋のお兄さんに
ほほえみかけてみたよ。
あれはきみのメロンパン屋のお兄さんだったかい?
メロンパン、とてもおいしかったよ。
きろえちゃんの味がした。


つぎの日曜には
かならず家にいてね。
おかまいなく、もう合い鍵も準備した。
たしかお父さんもお母さんも
留守だよね。
ふたりだけの宇宙のはじまりだよ。
ビッグバンだよちくびっぐりばばんばんだよ!
じゃあまた。
返事はいらない。きみの心はおみとおしだから。


  きみの一部 きろお より