たらたら神秘主義

本と映画と音楽と日常、できれば神秘

  森のプール

                      
〔泳ぐ子と静かな親の森のプール〕


森には森のプールがある
空には空のプールがあって
夜には夜のプールがある




森のプールを囲んで たたずむ親たち
泳ぐ 子どもたち
ららり らら
歌声が 森に響く
あえぎ、おぼれ、沈む 子どもたち
じっと見つめる親たち
何度も、何度も 繰り返される



空のプールの下 うつむく親たち
夕餉に箸を伸ばす
雲は しぼり、きれ、ひろがり
夕闇の落ちた町のむこうで
まだ はなやいでいる 空を 
泳ぐ 子どもたち
ららり らら
歌声が 空に響く



夜のプールは にごり 混乱している
得体の知れない 深海の魚や
血塗れの何かが ときどき顔を覗かせる
枕の上で 何度も反転しながら
人は 森のプールを 思う
生まれなかった 子ども
自分がそれであったかも しれないものを
ららり らら
歌声が 夜に響く



※「泳ぐ子と静かな親の森のプール」……金子兜太の句