たらたら神秘主義

本と映画と音楽と日常、できれば神秘

  じぶん


ぼくのクローンは二体。
本体と合わせて合計三体の「じぶん」を同時にコントロールしながら生きるのは、君たちからすると不思議なのだろうけど、慣れれば混乱することはないよ。物心がついたころには、すでにこうだから。
むしろ「じぶん」が一人だということのほうが想像できないな。
「孤独」っていう言葉があるけど、「じぶん」が一人だって意味? でも、みんな一人だったらそれが当たり前だろうに、それを表わす言葉があるのは変だね。


幸せだよ。もちろん、君たちのいう幸せとはちがうかもしれない。
君たちは、ぼくたちが「今」を味わえないと批判しているらしいけど、違うと思うな。
たとえば今、別のぼくは恋人との大切な時間を過ごしている。もちろんそれは、幸せと関係がないわけではない。だけど、なんていうか、君たちの言う幸せって、結局、肉体的な快楽っていう意味のことじゃないか?
もちろん、ぼくたちも生き物だから、肉体的な快楽がどうでもいいとは言わない。でも、快楽と苦痛の違いって、それほど大きいものではないよ。


死については考えるよ。ぼくたちにも「死」はありえるからね。もちろんぼくたちにとっての死は肉体の機能停止のことではない。一人が死んでも、「じぶん」はなくならないから。ぼくたちにとっての死とは肉体をコントロールしている「じぶん」が消滅することだ。
この前も、十体の「じぶん」を持つ友人と死について話したところだよ。彼も、もともとは三体の「じぶん」だったんだ。それが、つぎつぎと新しい「じぶん」と合わさることで、今の「じぶん」になった。それは、「じぶん」の死なんだろうか。それとも彼は「不死」なんだろうか。だいたい「じぶん」ってなんだ? 彼もそう言って笑ってたよ。