たらたら神秘主義

本と映画と音楽と日常、できれば神秘

  アメ玉

                        
緑色の列車に乗り込んだぞろぞろの人々。
国籍不明性別不明
ポケットの中にアメ玉ひとつ。
その中に
ぷっくりと右頬をふくらましているひとり。
それが僕だ。


  ここに来る前の、記憶。
  唇を合わせて左手を首にまわして
  鏡に映る自分自身と目を合わせる。
  この男でなくてもまったくかまわない。
  そう思っている。
  僕はそのとき女だった。


列車は激烈な音をたてて
暗闇を走る。
激しく揺られながら僕は
となりの誰かとくっついて
となりの誰かはそのとなりの誰かの
一部でしかないから
誰かは誰かでさえなくなって
僕は僕でさえなくなる。


  好きだ、と言うだろうか。
  唇を合わせて左手を首に。
  好きだ、と言った。
  一秒後に嫌いにならないと
  どうして言えるだろう。


遠くて小さい出来事。
消え去ってしまう前に
ふとかがやきを増した
記憶。
アメ玉が、溶けてなくなるとき。

           090126