たらたら神秘主義

本と映画と音楽と日常、できれば神秘

  よるのくに


仕事から帰って
ひとりでずっとテレビをみてると
すべてが少しだけ遠ざかって
私だけこの世界から五〇センチ後ろに
ずれてしまっているような
気持ちになる


ベッドに横になり
いつものように
右側の壁を見つめながら
その世界に入っていく
そこはいつも夜であり
私はいつも幼いままだ


  くろいやまやまのつらなりを
  ひとつひとつ越えて
  あるきつづけることが
  このくにということ
  ときどきとおくに
  あかい鳥居が
  ぼんやりうかぶ


  やみとじぶんのさかいめが
  わからなくなって
  あるきつづけるじぶんのほおに
  おんなのながいかみのけが
  さわっていったり
  しげみのなかをはしりぬける
  おとこのあしおとが
  きこえたり


  それはきっと
  べつのくにのできごと
  とおくまでつらなるやまやまを
  どこまでたどっても
  いきつけない


  やがてねむりは
  どこともしれないやまのふもとで
  ちいさくまるめたそのからだに
  おとずれる


  いちわの鷲が
  おおきなつばさを
  かたむけて
  ぐるぐるまわる
  ぐるぐるまわる


大きな鷲が旋回し始めると
わたしはここに戻ってくる
冷蔵庫から水をとりだして
ゆっくりと飲み下す
じぶんの身体の感覚を
確かめるために

             20020526