深い森の秘密
※ 日々渡っていかねばならないこの世間というやつは、うかつ者のぼくに対して
時にとんでもなく非情な態度をとったりする。だからそんな日は家に帰ると歯を
磨いてさっさと寝てしまうことにしている。
あなたの疲れを癒すのは
深い森
緑色に息づく木々の葉が
夜じゅう雫を滴らせる
※ うとうととしながらそんな想像をしてみる。母体回帰願望の一種だろうか。
森では遠くどこからか
迷い込んだあなたを呼ぶ
あなたの本当の名前で呼ぶ
だからあなたは知ることになる
ずっとまえからあなたを待つ
ひとりのひとがいることを
※ しだいに想像はぼくの制御をはなれ、夢の支配下に入っていく。森は南島の
ジャングルめいて、足もとにまで水が及んでくる。
踏み出すあなたの足もとを
緋色の鯉がかすめて泳ぐ
森の闇をぼんやり照らす
いく匹かの鯉を追い
深い森の奥へと向かう
だれかがあなたを待っているから
※ 実際に見た夢の中では、鯉の名前が館内放送のようにして森に響き渡って
いた。なぜか切ないような甘酸っぱい気持ちのまま、ぼくはじゃぶじゃぶと
森を歩いていく。
歩くことはいつか
鯉をかき分け泳ぐことになっていて
あの人はいつか
鯉をふくめたこの森の
存在それ自体になっている
あなたのからだは森に溶け
いつか森とひとつになる
※ 夢の中、ぼくは恍惚感に溺れる。自我という枠組みが壊れ、そこから開放
される経験。
深い深い森の奥
長い長い時がながれても
あなたはそこに存在する
そしてあなたは
どこにもいない
※ 空間的にも時間的にも「自分」からとき放たれ、ぼくは神と同化する。
010920