たらたら神秘主義

本と映画と音楽と日常、できれば神秘

  裏切りの記憶
            
いつだか見知らぬ一人の男に話しかけられたことがあった。
ミズホは元気かとこれも
知らない女のことを訊かれて
俺はうすら笑いを浮かべながら
もしかして俺には瑞穂という女がいて
今この広場で待ち合わせていたとしても
少しも変ではなくて、むしろそれが自然であるような
そんな気持ちになって、ああお前に会いたがっていたよ、また
今度飲もうぜ、常になく上機嫌にそう答え、じゃ、電話するよと言って
立ち去ろうとする俺に男は、ちょっと待てよ、そりゃないだろ、あいつに会わせろと
しつこく食い下がるから、いや、ほんとは人違いだよ、なんて今更そんなことが
言えるわけもなく、仕方がないから携帯で適当な番号に電話をしてみようと
するのだが指が覚えていた昔の女の番号に電話してしまい、俺だよ、おまえに会いたいと
いうやつがいるからと、何だかすべてどうでもいい気持ちになって、かつて互いに裏切りながらその汚さを相手になすりつけるように付き合っていたその女にこの見知らぬ男を引き会わせてやろうと、俺は高架沿いの道を西に向かった。