たらたら神秘主義

本と映画と音楽と日常、できれば神秘

  風に吹かれる雨の記憶


教壇に立って試験監督をしていると、
午前中は晴れていた外の景色がいつのまにか黒ずんでいて、
よく見ると雨が降っていた。


二階の窓から見える外の樹々が
風に吹かれて大きく揺れ、
そこにもったいないくらいの勢いで
雨が降り注いでいる。
樹々の向こうでは蒼みを帯びた遠くの森が、
手前とは別のリズムで揺れている。
かすかに雷鳴が聞こえ出す。
雨と風と雷の音が時空をねじまげて、
気づくとぼくは密林のなか、
雨と風と轟音と、
命そのものの中にいる。


風に飛ばされてきて頬に張り付いた葉っぱをはがすと、
ぼくは命の中心へ向かって走り出す。
そして風になぎ倒される。
頭を起こすと、葉むらの間から一瞬、
赤い空が見える。
生ぬるい水に浸された草を握り締め、
ぼくは嵐に向かい、咆哮する。


その瞬間、
鮮やかな緑の世界が照らしだされる。
生けるものすべて、
死につつあるもののすべて、
過去と未来とすべての時間が、
すみずみまで照らしだされるのだった。


そして雷鳴が
あたりの空気を震わせた。


……幼いぼくが、雨降る田んぼに立っている。
遠く、灰色の空に小さくにじむ鉄塔の赤い光。
頬に当たる雨粒を感じながら、
それを見つめている。
赤い光がゆっくりとともり、
そしてゆっくりと
消えていく。