たらたら神秘主義

本と映画と音楽と日常、できれば神秘

  ある芸術家の肖像
                

若い恋人が、言うのである。


  「私と結婚したいって言ってくれてる人、
  いるんだ」


問題は、その彼を
好きかどうかではないのか。

 
  「すごく好きなわけじゃないよ。
  でも、私のこと大事にしてくれそうだし
  ……それでもいいのかなって。
  お金持ちだし」


たしかに、金は重要かもしれないが、
大切なのは、金ではないよ。
そんなことをここで
説教するつもりはないけれど。


  「彼? かっこよくないよ。
  太ってるし。変態だし。
  でも、性格はいいよ。
  友達みんな、結婚しちゃえばいいじゃんって
  すすめてくれるし」


変態? 
変態と、結婚するというのか。
それは……興味深い。


  「その彼の部屋でパーティーが開かれたりするんだけど
  ――すごく広くておしゃれだし、
  一人暮らしだしね――、
  クローゼットにね、ずらっとコスプレ衣装が用意されてて、
  女の子たちみんなそれに着替えさせられるの」


当然、彼女も着替えたということか。
私の前ではしてくれなかった
サービスである。


  「私? スチュワーデス。見たいー?
  でね、私、前から気に入られてて、
  『好きだよ、まりちゃん、
  ぼくの憧れの人だ』って。
  彼の寝室に拉致られちゃったりするの。
  みんな? いるよ。
  でも笑って見てるの。ひどいでしょ。
  寝室に連れていかれて、
  『まりちゃん、大胆すぎるよ、そ、そんなふうにしたら、
  すぐにイッちゃうよっ、あ、あっ……』とかって、
  ……みんなに聞こえるように言うんだけど、
  実際には何もしないの」


彼は、本気で結婚を望んでいるのだろうか。


  「わかんない。だって、どこまでが冗談か、
  わからない人だし。たとえばね、
  夜、電話をかけてきて、
  『今から、まりちゃんのことを想って一人でするから』って。
  そんな報告されても…って感じでしょ?」


彼のことを変態と彼女は言うが、
自らモテない男になりきることで永遠の恋を成立させる、
そんな彼を私は
「芸術家」と呼びたいのである。