たらたら神秘主義

本と映画と音楽と日常、できれば神秘

  黒い川の流れのなかで


ある夜のこと
ぼくは車を運転して
利根川にかかる
橋を渡った
黒く巨大な水のかたまりが
ゆっくりと移動していた


想像はそのまま現実である
ぼくは
黒く大きなうごめく水に
飲み込まれた
車も靴も仕事も家庭も
みんな黒い水の中
たくさんの物と生き物と
それぞれの時間が
縦になり横になり
逆さまになって流されていく
死んだおばあちゃんが
川の岸辺にしゃがんで
祈っている


花火だ
打ち上げ花火が
夜空を染めて
仕掛け花火は
光の滝となりながら
黒い水の中を照らし出す
ぼくらのすべては溶けあって
たがいに少しずつ混じり合い
赤く青く
黄色い光に染められる


(昔ぼくはこの橋を
 通りかかったことがある
 恋人から別れを告げられた後で
 自宅に帰る途中ぼくは
 花火大会の渋滞に巻き込まれ
 のろのろと進む車の列から
 北利根川の水面を彩る
 仕掛け花火を見ていた)


あのときの花火の下を
今ぼくは流されていく
すべては夢のようだ
彼女も同じこの川を
やはり溶けあいながら
流れているに違いない
利根川の黒い水の中
彼女と僕の瞬間が
仕掛け花火に照らされて
浮かび上がる
そして再び
消えていく