ユダヤ教の安息日のことをよくは知らないのだが、それに倣うつもりで、毎月どこかの休日を「ぐうたらの日」とし、本もテレビも新聞も、インターネットはもちろん、どんな電子機器にも触れてはならず、車はもちろん、いかなる交通機関も利用してはならず、なるべく歩いてはならず、貨幣もことばも使ってはいけないという規則を設けてしばらくになる。
ある雨のそぼふる秋の午後、「ぐうたらの日」を過ごしていた。
ソファに横たわり、ベランダの片隅に揺れるクモの巣をみながら、雨音をしばらく聴いていると、雨音のベールの向こうに、新たな雨音が聞こえ、その向こうにつぎつぎと現れる雨音のベールを透かして、誰かが息をひそめているけはいがする。
幾人もの人間らしきものが、自分の足もとを見ながら雨の向こうに佇んでいる。おんぼろのレインコートを来た男や女が垢のにおいをさせながら、雨にたたかれる叢のなか、体をかすかに揺すり、低い声でぶつぶつと何かを唱えている。やがてそれらがカミというものだと知る。
がさがさという音が近づいてくる。リビングのガラス窓をたたく。次々とレインコート姿のカミガミが現れて、ガラス窓をたたく。雨音が大きくなる。