たらたら神秘主義

本と映画と音楽と日常、できれば神秘

 雨ふる鉄塔、森の中


幼い私が
雨のなかで
鉄塔の
赤い光を見つめてる


見渡すかぎり誰もいない
畑の中を
しとどに濡れて
歩き出す
世界が何かも
分からないままに


鉄塔は
森の中に立っている
大きな蛇や
素性の知れない
ぼろをきた男や
突然現れる
小さな電車なんかが
住人で


近づくほどに鉄塔は
その大きさを増していく
森の中から見上げれば
世界のすべてを見下ろして
それでもぼくだけを
じっと見据えて


歩きつづけて少年は
森の中に消えていく
あるいは少年は最初から
大きな蛇か
ぼろを着た男か
小さな電車
だったのかもしれない


世界は少年をおいたまま
進んでいく
そして森はやすらかに
たゆたっている
大きな鉄塔の
そのたもとで


雨ににじんだ
赤い灯が
ゆっくりとともる
そしてまた
ゆっくりと
消えていく