たらたら神秘主義

本と映画と音楽と日常、できれば神秘

  夢の女

               

  1

その人とともに、夜の河のほとりに住んでいたことがある。その頃、私と彼女は、ひとつだった。体をかさね、目を瞑りながら、ただ水の音を聞いていた。それは、別の世界での出来事。会ったことのない女の記憶。

  2

ある日彼女は、黒い河に流されていった。白い裸体がゆるやかに回転しながら水面を遠ざかっていく。私はそれを、夢に見ていた。

  3

稲妻の光だけが空にひらひらと瞬いていた。照らされてあたりは常にうっすらと青い。縁側に座って、私はだれかを待っている。まぶたを閉じても、すべてが見える世界で。

  4

会ったことのないその人を求め、私は駅に降り立った。そこは私のための世界だ。歩き続けるほどに植物の匂いが濃くなって、彼女の存在を確信する。

  5

狂ったように繁茂する植物にうずもれるように、その家は私を待っていた。その人の匂い、その人の日常、その人の喜び、その人の苦悩、その人の恋、その人の病。すべてがそこにあった。その人自身は不在のままに。

  6

不在は、そのまま私の棲家となった。彼女の人生をくりかえし生きること。私は少しずつ彼女の存在に冒されて。そして私は彼女自身になった。