たらたら神秘主義

本と映画と音楽と日常、できれば神秘

  蝶を夢む

              
森のひらけた その場所にだけ 陽がさして
ただよふ水 浮かぶ死体 ゆつくりと回転し  
しろい肌を ひかり 斑らにうつろふ。


あれは わたし
それを どこからか見てゐる
幾億の 虫たち 鳥たち けものたちそして
木々の葉
それも わたし
一匹の蝶がまひおりて
死体にとまる。



一つの蝶の これは夢なのだ
つめたい屍蝋に 口吻をよせ
甘い ときを吸ひつくす。

森のうつろを ただよひながら
幾億のいのちと
ながいながい時間のなかに
溶けてゆく。

とほくで 幼な兒のわたしが泣いてゐる。



※ 【屍蠟】…死体が蠟状に変化したもの。死体が長時間、水中または湿気の多い土中に置かれて空気との接触が絶たれると体内の脂肪が蠟化し、長く原形を保つ。(『大辞林』より)