たらたら神秘主義

本と映画と音楽と日常、できれば神秘

柴崎友香は、保坂和志が褒めていた『きょうのできごと』がぴんとこなくてその後読んでいなかったのだけど、
『わたしがいなかった街で』について、三島賞選考のだれかの評のなかで、
「じぶんが生きていることが、たんなる偶然で、どうでもいいことだという感覚を描いている」みたいなことを書いていたので、読んでみた。


この、どうでもいい自分の人生や、どうでもいい(ような一瞬すれちがうだけの)人の、
どうでもいいような瞬間を、貴重なもののように描き出すというのは、
保坂和志が言うような、技術的にどうのこうのというのとはちがって、
センスの問題だろうと思うのだけど、とにかく、とても良かった。


いぜん、国木田独歩の「忘れえぬ人々」を読んで、「ああ、こんなに素直に小説を書くものかあ」と感動したけど、
そこで描かれていた、人生上でふと交差しただけの、見ず知らずの人の存在感についての感動と共通するものがある。


ポイントは、「自分が主人公!」という感じの小説、あるいは、特別な人間の特別な人生を描いた小説の対極にあるということだ。
他人の人生も、自分の人生も、ただ平凡で意味のないものとして、しかも、(これを言うと胡散臭くひびくけれど、)平凡だからこそ貴い一瞬、みたいなものを描き出している、ということで、
小説として新しいとか、新しくないとかではなくて、単純にいいものを読んだ、という感じがした。

そのあと、『次の町まで、きみはどんな歌をうたうの? 』も読んだけど、これも良かった。