たらたら神秘主義

本と映画と音楽と日常、できれば神秘

ひと月くらい前だろうか。夕方、家の近所を散歩した。


なんでもない住宅地をちょっと西に逸れたら、何かが変わった。
あたりが急にしずかになって、鳥の声が妙に鮮明に聞こえる。どこかの家で奥さんが誰かに怒っている声が、筒抜けになって空間に響いている。
何種類かの鳥の声が、遠く、近くでさえずっていて、空間に奥行きがあることを知る。(そういえば、以前、雨の降るなか露天風呂に浸かっていたときに同じことを感じた。周囲の木々の葉をたたく幾億もの雨の音が、暗闇の奥行きを知らせていた。奥行きとは豊かさのことだ。)
妙にはっきりと響く自分の足音を聞きながら、そこが聖なる空間であるような気持ちになった。単なる野っぱらなんだけど。家の近所だし。


今日、同じ道をふたたび歩いた。鳥の声はしなかった。でも特別な雰囲気はやっぱりあって、なんだか怖い気持ちになる。「聖なる場所」と「不吉な場所」は紙一重なのではないかと思う。単なる家の近所なんだけど。
近くに墓地があって、15日なのになぜか墓参りをしている二人がいた。パトカーがゆっくりと通り過ぎて行った。助手席の警官がずっとこちらを見ていた。