たらたら神秘主義

本と映画と音楽と日常、できれば神秘

映画『グラン・トリノ』

クリント・イーストウッドが監督する映画はいろいろ見てきた。それぞれかっこいい映画で、すごい才能だと思うのだけれど、なんだか職人芸を見ているような感じで、個人的にはものたりなかった。


でも、この映画の繊細なうえに大胆という感じの作りかたがむちゃくちゃかっこよくて、感動した。
内容もいいけど、内容ではなく、作り方に感動する。
頑固なじいさんである退役軍人が、隣りに住む東南アジア系のモン族という民族の少女なんかと交流するようになって……、というようなストーリー。


かっこよさのポイントの一つは、モン族の文化とか生活とかが「異質なもの」として映画の中に異質なままに入ってくることだ。
最初、唐突にモン族の家族の様子が映されたとき、別の映画に変わってしまったのではないかと疑いたくなるくらいだった。
つまり、アメリカ人であるイーストウッドが完璧に演出することは不可能なものをドカリと入れてしまい、そのうえで、それと主人公がどうかかわっていくかを映していく、その大胆さがかっこいいのである。


もうひとつのポイントは、頻繁におこなわれるカメラの切り替えだ。
ちょっと気になるくらい速いテンポで、カメラが切り替わる。くらくらする。
映画の演出法に詳しいわけではないけど、カットの切り替えがあまりに速いことによって、演出の方向性を制御することは不可能になっている気がする。
理性よりも身体的リズムによって出来上がっている画面というような。


と、いうような感じで、自分の制御を離れたものを作ろうという大胆さが、もうすぐ80歳(!)近くの監督によってなされるというのが、すごい。
老いるということが、それほど悪いことではないと思わせられる。


映画を採点:★★★★★