たらたら神秘主義

本と映画と音楽と日常、できれば神秘


「風邪を引いても人生観は変わる。人生観とは風邪の一症状である」
というのは誰の言葉だったろう。
別に風邪を引いているわけではなくて、むしろ長く引いていた風邪がやっと治ってすっきりしているのだが、
たとえば身体の血の巡りが悪いというだけでなんだか世界は窮屈で、
ちょっとしたきっかけで血が循環しだすととたんにうきうきしたりする。


いぜん接骨院で血圧を測られた時、
「かなり低血圧ですね」と医者が言うから、
「低血圧だと何か問題があるんですか?」と尋ねると、
「いつも元気がないでしょ」
と、身もふたもない言い方をされた。


別にいつも上機嫌にしている人の人生が幸福かというとそんな単純なものでもないとも思う一方で、
ちょっとした体調の変化に左右されて気分が落ち込んだりすること自体、かなり単純な人間だとも思う。


太宰治の文学を称して、
「あんなものは体操をすれば直る」とか何とか
三島由紀夫が言ったというエピソードがぼくは好きで、
だいたい文学における憂鬱なんてものは、
血の巡りが悪いから落ち込んでいるだけのことかもしれず、
だけど一方では、それでもその人にとっての世界は、
その血の巡りだか風邪だかによって左右される世界でしかないのであり、
つまりは、「自分」をカッコに入れてしまわずに世界を描くのが文学であるなら、
なんだって文学だ、とも思うのである。