たらたら神秘主義

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映画『ビフォア・サンライズ』

『ビフォア・サンライズ』というタイトルは、なんとなくロマンチックでありきたりの映画を想像するけど、そんなことはなくて、とてもいい映画だった。
前に、ベルトリッチ監督の『ドリーマーズ』を観たときに書いたことだけど、ぼくにとってのいい映画の条件は、そこに「個人的な時間」が流れているかどうかだと思う。
まるで、それが自分にとっての、なかば恥ずかしいような、とても他の人とは共有できないだろうと思うような、個人的な時間が流れる映画。
『ビフォア・サンライズ』はそういう映画だった。


アメリカ人の青年が、ヨーロッパ鉄道に乗って旅行中、フランス人の女の子に出会い、翌朝の飛行機でアメリカに帰るまでの一晩だけ、一緒に過ごす話。
旅先で出会った女の子が好きになったことはぼくにもあって、
まあ、この映画みたいな展開にはならなかったけど、
知らない場所で、まったく知らない人と親しくなっていくのは、とても刺激的な体験だ。


とても遠くにあった「点」が(それまで何のつながりもなかった)、
急速に近づいて、重なり合い、互いに染み込んでいく、という感じ。


この映画がすばらしいのは、何かものすごい出来事が起きるわけでもなく、
けっこうたんたんと過ぎていく中で
二人が話すおびただしい会話が映画の中心となっていることだ。
若者独特の青臭さがあるけど(そういう「青臭さ」をぼくも捨ててしまったわけではない)、
人生の真実をついているような、会話。
急速に近づいた「点」どうしだからこそ、成り立つ濃密さで、
人生とか、世界とか、男と女とか、の話が交わされる。
まるで、映画を観ている自分にとってのとても個人的で、ちょっと気恥ずかしい会話がそこにあるみたいに感じる。


映画というのは時間の芸術だ、と、蓮實重彦だか誰かが言っていたけど、
特別な時間、が成立してはじめてその映画が特別になる。
そして、時間というものは、本来、きわめて個人的なものだ。
自分の人生の一つの大切な記憶のような、そういう映画を、また観たい。


映画を採点:『ビフォア・サンライズ』……★★★★★★


《観た映画を6段階の★で評価》
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 ★★☆☆☆☆……ふつー
 ★★★☆☆☆……おもしろかった
 ★★★★☆☆……すごくおもしろかった
 ★★★★★☆……傑作
 ★★★★★★……傑作! 自分にとって特別な作品