たらたら神秘主義

本と映画と音楽と日常、できれば神秘


このところ寝る前に読んでいるのが古井由吉の『楽天記』だ。
この人の文章はすごい。
文章を数学にたとえるなら(数学が苦手なので相当あやしいたとえだけど)、普通の小説の文章が整数だけでできているとすれば、古井由吉の文章は、分数や少数だけでなく、無理数、どころか虚数まで使って書かれている、という感じ。
しばらく前に、川端康成の『山の音』を読んでおもしろかったけど、古井由吉はその方向性で、しかも『山の音』を1000倍、精密にしたような作品だと思った。

文章で何かをシンプルに言い表そうとする努力というのがあるけど、それは、裏を返せば、網目の大きなざるで現実をすくうようなもので、繊細なものたちを取り出すことはできない。かなり当たり前なことを書いてるけど。
それに対して、古井由吉の文章は、すごく目の細かいざるのようなものだ。そこで取り出された「とても繊細なもの」を読んでいると、現実が違って見えてくる感覚がある。ただし寝る前にに読んでいると、現実がぼんやり捕らえどころのないものになっていって、あっという間に眠ってしまう。