たらたら神秘主義

本と映画と音楽と日常、できれば神秘

子供のころ、ザリガニ釣りをしていて、ひどく怖い思いをしたことがある。
心の底の方から何かを揺るがされる。そういうタイプの恐怖だ。


ザリガニを釣るためにたいした道具はいらない。棒切れの先にタコ糸をしばりつけて、タコ糸の先に餌をつけて用水路の中に放り込めばよい。ただし、あまりにも簡単に釣れるので、釣り独特の快感は得られない。
餌として一番手軽なのは、酒のつまみにしたりする「さきイカ」だが、都合よく家にさきイカがない場合、カエルを使うことがある。


まずカエルを捕まえる。
だけど、そのままでは餌としては使えない。
第一まだ生きているし、たとえ殺しても、そのままでは水に沈まないからだ。
カエルの中には、「浮き袋」があるから、それをつぶす必要があるのだ。
足の先から皮をペリペリと剥き、その後タコ糸の先にカエルの脚を結び付ける。
そして、タコ糸のもとの方をにぎったまま、思い切りアスファルトにたたきつける。
何度も何度も。
すべてがぐちゃぐちゃになるまで。


でもカエルが捕まらないこともある。そういうときはザリガニ自体が餌になる。
まず一匹ザリガニを捕まえる。
尻尾の部分を胴体からひっこぬく。
上半身はいらないから、堀の中に捨ててしまう。
尻尾つまり下半身にタコ糸を結び付け、堀の中に放り込むと、それにザリガニが食いついてくるのだ。


あるとき、そんなふうにザリガニの尻尾を餌にして堀の中に釣り糸をたらしていた。
手ごたえを感じる。
竿をあげる。
タコ糸の先に、下半身のないザリガニが食いついていた。